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ドクトリンとは戦闘教義、フラーの9原則とは別物

note.mu

また出たな、
軍事ネタを適当につまんでビジネスtips転用奴!



「戦いの原則」について

ドクトリンという言葉は確かに定義が結構曖昧だったり国によって解釈にゆらぎがあったりするんですが、あの記事がドクトリンの説明だとするならそれは間違いとはっきり言えるでしょう。


記事で紹介されてる箇条書きは英軍人フラーによるいわゆる「戦いの原則」です。重要な教理ですがドクトリンとは違うもの。何故戦いの原則とドクトリンを混同したのか想像もつかない。そんなヘンテコなこと書いてある本は無いと思うのでnoteネタ仕入の為にものの本をボヤーッと流し読みして筆者氏の脳の中で混ざったと思われる。*1


ちなみに自衛隊リタイヤの戦争本など読めばフラーの戦いの原則はほぼ必ず出てくると思います。改良されながら現在まで米陸軍で採用されてるからです。一方でドクトリンの説明をちゃんとしてくれる人は意外に少ない。今更「ドクトリンとは何か」から論じるのは実務家の領域ではなくマニアとかオタクの領域だと言うことかと思います。


なのでせっかくだからドクトリンの説明をしておきたいと思います。

ドクトリンとは何か

ドクトリンは日本では「戦闘教義」と訳されていますが、要は得意技とか得意取り口みたいな感じです。自分の戦い方と勝ちパターンというか。相撲で言ったら力士によって「左四つで寄る」とかそれぞれの必勝の形があるでしょう。日頃の稽古もそれに向かって取り組みますよね。あれの軍隊版です。


ドクトリンは軍隊によってそれぞれ独自のものを持ちます。民族の文化や思想にも影響されます。本来離れた場所に住んでいた異民族同士の戦争は、大きく異なる戦闘教義によって勝敗が決定してしまうことがままありました。ピュアな異種格闘技戦が噛み合わないワンサイドゲームになりがちなのと似ています。


他の上を行く優れたドクトリンを開発して訓練すると世界を征服できたりします。アレクサンダー大王マケドニアファランクスであったり、チンギス・ハーン軽騎兵戦術であったり。
軍人の仕事で重要なことは、目の前の戦争を戦い抜くことと同じぐらい、次の戦争のドクトリンを開発すること(まだ誰も見たことがない戦争とその勝ち方を想像すること)です。技術や環境の進歩に合わせて新しい戦形を作っていかなければ必敗だからです。


ゼロからわかるドクトリンのいちれい「電撃戦

第一次世界大戦は膠着する塹壕陣地戦になりました。新発明された兵器「機関銃」の火力の前に歩兵が前進できなくなったからです。横に広がる塹壕が敵の塹壕によって迂回突破されないように、両陣地にらみ合いながらどこまでも横に伸びていく横隊の時代。
その頃には戦車も開発されていましたが、歩兵を小火器から守る動く盾のような運用をされました。これは塹壕戦の発想の延長から戦車を運用するものです。


「そうじゃなくて戦車をまとめて縦隊運用したら強いんじゃない?」という発想の転回をしたのが皆さんご存知のドイツ陸軍による電撃戦です。
司令部ではなく前線からの要請で航空機爆撃をし、そこに戦車が先頭で突撃、歩兵砲兵もそれに追随、横に広がった敵の戦線を一点突破して突破口の維持を考えずそのまま敵後方深くに侵出、重要拠点を破壊し連絡線や補給線を断つ。第二次大戦で電撃戦を使いこなすドイツ陸軍に対抗できる陸軍はありませんでした。*2


おわかりのように機動力と連携が命の戦法です。戦車の大量生産、歩兵砲兵の全機械化(機械化とはサイボーグ化ではなく全兵員を運ぶ自動車がつくということです)、無線の発達がこれを可能にしました。第一次大戦敗北後の戦間期にこの状況を想像し、戦い方を開発して、完全にこの為の生産と訓練をしていたわけです。このような軍隊の運用思想が戦闘教義、ドクトリンです。
 

すごいですよねグデーリアン
この優れた軍人のビジョンと研究が序盤西部戦線の一方的な戦況を作りました。
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以上、こんなのがドクトリンです。戦いの原則はドクトリンを開発する時にもチェックすべき基礎事項でありますが、あくまで戦いの原則とドクトリンとは別の概念なわけです。 
  
 

これビジネスに役に立つかなあ?

軍人じゃない人がフラーの9原則を覚えたってどうにもならなくないですか?


一口に「集中の原則」と言ったって、実際に戦場で当てはめて考える時には時間の集中なのか場所の集中なのかも分かれるし、その先に考えることが沢山あるわけです。
それをガサッとした原則中の原則だけ覚えて他分野に生かせるだろうか?


そしてそういうことを言いだした人は過去に一杯いて、みんな大好きドラッカーなども何十年も前に「軍隊の叡智をビジネスに生かすやで~」みたいなこと言ってるわけですし、吸い取れるものはだいたい吸い取られてビジネス啓蒙本に溶け出してると思いますよ。


あるいは、すっごい軍事話が好きで散々そういう知識を血肉にした人ならば、仕事の自分の分野に応用を利かせられる場面もあるかも知れないけど(あるかなあ?)、別に軍事なんか好きじゃない人が「ビジネスの為に戦いの原則を読む」って遠回りもいいとこでは?


当該note記事みたいに、明日仕事に生かせるtipsが欲しいと言うことなら自分の分野かその隣接分野のすぐ試せる知識の載った本を読んでるべきで、全然違う分野の本を読むなら趣味とか教養として割り切るべきではないでしょうか。


全然違う分野から明日生かせるtipsを拾おうみたいなスタンスは最高に意味わからんし非効率な気がする。



関連エントリ
ketudan.hatenablog.com





こういうのを「わーい たーのしー」ってただ楽しんで読むのが一番だと思うんですけどね。

すき。

*1:一応英語としてdoctrineには原則という意味もありますが、軍事ネタでわざわざカタカナで使っている以上混乱による誤用としてよいでしょう。

*2:無敵のドイツ陸軍を粉砕したのは電撃戦を不可能にするインフラ劣悪にしてだだっぴろい白い大地でした。Ура СССР!